東京地方裁判所 昭和54年(ワ)2557号 判決 1980年11月26日
原告
株式会社オムコ
被告
旭硝子株式会社
上記当事者間の標記事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 原告
① 被告は、別紙物件目録記載の物件を製造し、譲渡若しくは販売し、貸渡し、又は譲渡、販売若しくくは貸渡のために展示してはならない。
② 被告は原告に対し、金1000万円及びこれに対する昭和54年4月4日以降支払済みまで年5分の割合による金員の支払をせよ。
③ 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び第2項につき仮執行の宣言
2 被告
主文同旨の判決
第2請求の原因
1 原告は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有している。
特許番号 第835512号
名称 飲料水ポツト
出願 昭和47年6月10日
出願公告 昭和51年2月13日(昭和51-4589)
登録 昭和51年11月18日
願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載
「1ポツト本体に陰極室を形成し、該陰極室に注ぎ口を連通させると共に、該陰極室頂部に開口を設け、該開口より上記陰極室内に挿脱可能に容器を嵌挿し、該容器内を陽極室とし、該陽極室と陰極室とをポーラスな隔壁で仕切ると共に、各極室内に電極を設けたことを特徴とする飲料水ポツト。」(別添特許公報の特許請求の範囲の欄参照)
2① 本件発明の構成要件は、次の(1)ないし(6)のとおりである。
(1) ポツト本体に陰極室を形成してあること、
(2) 該陰極室に注ぎ口を連通させてあること、
(3) 該陰極室頂部に開口を設けてあること、
(4) 該開口より右陰極室内に挿脱可能に容器を嵌挿し、該容器内を陽極室とし、該陽極室と陰極室とをポーラスな隔壁で仕切つてあること、
(5) 各極室内に電極を設けてあること、
(6) 以上の構造を備えた飲料水ポツトであること、
② そして、本件発明は、上記①の構成要件を具備することにより、
(1) ポツトタイプに改良したものであるので、特別な設備施工を行わずに、手軽にアルカリイオン濃度の高い飲料水を得ることができる、
(2) 酸性イオン水の除去、内部清掃などが行いやすい、という作用効果を奏するものである。
3 被告は、別紙物件目録記載のカルシウムイオン水生成器(以下、「イ号物件」という。)を製造し、譲渡、販売し、貸渡し並びに譲渡、販売及び貸渡のために展示している。
4① イ号物件は、本件発明の構成要件に対応させて分説すれば、次の(1)'ないし(6)'の構成を有するものである。
(1)' ポツト本体2内に陰極室3を形成してあること、
(2)' 陰極室3に、水を注出するノズル13を連通させてあること、
(3)' 陰極室3の頂部に開口4を形成してあること、
(4)' 右開口4より陰極室3内に挿脱可能に円筒素焼物5を挿入し、その下端部を、パツキング6を介してポツト本体2の内底面に押圧することにより該円筒素焼物5内を液密にし、上記円筒素焼物5内を陽極室7とし、陽極室7と陰極室3とを上記円筒素焼物5より成るポーラスな隔壁で仕切つてあること、
(5)' 各極室3、7内に細長い電極棒8、9を設けてあること、
(6)' 以上の構造を備えた、飲料用カルシウムイオン水の生成器たるポツトであること。
② そして、イ号物件は、上記1の構成を有することにより、
(1)' ポツトタイプにしてあるので、特別な設備施工を行わずに、手軽にアルカリイオン濃度の高い飲料水を得ることができる、
(2)' 円筒素焼物5内の陽極室7に残される酸性イオン水の除去が容易で、内部清掃などが行いやすい、という作用効果を奏するものである。
5 そこで、イ号物件を本件発明と対比すると、イ号物件の構成(1)'ないし(6)'は本件発明の構成要件(1)ないし(6)をそれぞれ充足し、また、イ号物件の作用効果(1)'、(2)'も本件発明の作用効果(1)、(2)とそれぞれ同一であるから、イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するものである。
したがつて、被告が前記3のとおりイ号物件を製造し、譲渡及び販売し、貸渡し並びに譲渡、販売及び貸渡のために展示する行為は、本件特許権を侵害するものである。
6 被告は、イ号物件の製造販売等の行為が本件特許権を侵害するものであることを知り又は過失によりこれを知らないで、イ号物件の製造販売等を行つて本件特許権を侵害したから、これにより原告の被つた損害を賠償すべき義務がある。
しかして、原告もまた自らカルシウムイオン水生器の製造販売等を行つているところ、被告は、本件発明についての特許権設定登録以降本訴提起の日である昭和54年3月20日までの間に3000台を下らない数のイ号物件を販売し、1000万円を下らない利益を得たので、特許法第102条第1項の規定により、被告の得た右利益の額が、被告の侵害行為により原告の受けた損害の額と推定されることになる。
よつて、原告は被告に対し、イ号物件の製造販売等の差止め並びに上記損害金1000万円及びこれに対する不法行為の後の日であつて本件訴状送達の日の翌日である昭和54年4月4日以降支払済みまで民事法定利率年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第3請求の原因に対する答弁及び被告の主張
① 請求の原因1及び2は認める。
② 請求の原因3については、被告がイ号物件を製造しているとの点を否認し、その余の点はすべて認める。
被告が譲渡等を行つているイ号物件は、訴外株式会社メイセイの製造に係るものである。
③(1) 請求の原因4①のうち、イ号物件か(1)'及び(5)'の構成を有することは認めるが、その余の点は否認する。
(2) 同4②は否認する。
④ 請求の原因5及び6は否認する。
2 イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属さない。
① 本件発明は、原理的にはもちろん、構成自体においても出願前公知公用のものであつて、本質的に特許に値しないものであるから、その技術的範囲は本件明細書に具体的に開示されたところに限定されるものというべく、みだりに拡張解釈することは許されない。
(1) すなわち、電解質である乳酸カルシウムなどの塩の水溶液を電解(正確には電解透析)によりアルカリイオンと酸性イオンに分けることは全く基礎的な化学知識であり、そのために、陽極と陰極を設け、陽極室と陰極室を隔壁で仕切る必要のあることは当然のことであり、更に、ポツトタイプにした点も、家庭の台所にありふれたポツトと同じように小型にして軽い材料を用い、注ぎ口をつけたというだけのことであつて、いずれの点も何ら特許に値しない。
(2) このことは、本件発明と実質的に全く同一といつてよいほどの、次のような考案、装置が本件発明の特許出願前に存在し、しかも、いずれの出願人も単なる電解装置だけでは実用新案登録の対象にすらならないことを自覚し、これに他の機構を設けることを附加して出願していることからも明らかである。
(ア)本件発明の特許出願前の出願に係る実用新案登録願昭和47年第28779号考案(昭和47年3月8日出願(乙第1号証の1)、昭和51年9月4日拒絶査定(乙第1号証の3)。以下、「本件先願に係る考案」という。)のヘルスウオーター製造機は、陽極室たる容器を陰極室内に「嵌挿」するという点を除き、本件発明の構成要件をすべて具備したものである。
(イ) 本件発明の特許出願前に頒布された実用新案出願公告昭和44年第24217号公報(乙第2号証、昭和40年4月23日出願、昭和44年10月13日出願公告、別添実用新案公報参照)に記載されたポータブル自動停止型電解水製造装置(以下、「本件公知技術」という。)は、明細書添附の図面を比較しても本件発明と酷似するものであり、本件発明は、横孔を設けたという点だけで相違するにすぎない。
(3) 原告は、本件発明は、本件先願に係る考案、本件公知技術(以下、両者を「本件先行技術」と総称する。)とは、根本的に対象及び技術分野を異にすると反論するが、その理由は、要するに、本件先行技術が工業用ないし業務用の大型の電解装置を対象とするものであるのに対し、本件発明は家庭用の簡便型電解装置(飲料水ポツト)を対象とするものであるというに尽きるようである。
(ア) しかし、そもそも、原理的にも構成自体においても基本的に何ら差異のないものが、ただ家庭用に小型化したという点だけで別の発明として特許の対象となるという、原告の立論そのものが失当である。
なぜなら、原理的にも構成自体においても基本的に何ら差異のないものを、家庭用に小型化し、適当な形にアレンジするという程度のことは、小型化すること自体に技術的に解決を要する困難な障碍があるという場合でない限り、単なるデザインの問題にすぎず、全く技術的創作力を要しない問題であるからである。
(イ) しかも、本件先行技術が工業用ないし業務用の大型の電解装置を対象とするものであるという前提自体が誤りであつて、本件先行技術は決して工業用ないし業務用の大型の電解装置を対象とするものではないのである。
(ⅰ) 本件先願に係る考案の明細書(乙第1号証の1)の考案の詳細な説明の欄には、本件考案「の目的とするところは、構成をコンパクトにすると共に」(2頁1、2行)、「本考案は上述のような問題点を一掃した取扱いの便利なヘルスウオーター(アルカリ性水)製造機を提供しようとするもので」(3頁5ないし7行)という記載があり、「コンパクト」や「取扱いの便利な」という直接的に明示する語の外、ヘルスウオーターを作るということ自体、本件先願に係る考案の目的が、本件発明の目的と同じであつて、決して工業的なものでないことを示しているのである。
原告はなお、本件発明が飲料水ポツトに係るものであることを強調し、ポツトとは、現在のわが国における生活用語上、家庭で、食卓などに置かれて日常簡便、手軽に用いられる日用品的な水等を入れるものを指し、例えば「水槽」、「甕」と表現されるようなものは含まないと反論するが、ポツトの原語potは、元来「壺」、「甕」等の容器を意味するものであるから、これが果たして、現在のわが国における生活用語上、卓上に置くものに限られるようになつたかどうかは疑問であるのみならず、本件先願に係る考案の「製造機」も、その物々しい名称にもかかわらず、卓上に置けるようなものでないとは、その明細書からはいえないのである。
(ⅱ) また、本件公知技術の「ポータブル自動停止型電解水製造装置」は、まさに原告のいう「ポツト」に外ならないのであつて、このことは、その明細書の考案の詳細な説明の欄の「この考案は……電解水製造装置全体を簡易単一小型化し取扱い安全で持ち運びに便利とした」(別添実用新案公報2欄1ないし3行)、(樹脂製容器1には手さげ20を取つけて携行に便利にしているので場所と取扱者を差別することなく使用が簡単で)同3欄12行ないし4欄1行)というような記載及び添附図面によつて疑問の余地のないところである。
(4) 原告はまた、特許庁の審査分類に関して、本件先行技術の主分類がともに13類Dとされているのに対し、本件発明の主分類が91類Cとされているのは、本件発明が本件先行技術とは技術分野を異にすることを特許庁担当官が認めたからに外ならないと反論するが、かかる反論は全く理由がない。
すなわち、本件発明のようなイオン水生成器に関する発明の出願は、同様の技術分野に属する本件先行技術の場合がそうであるように、電解技術関係の第13類Dを主分類として審査される建前であり、上水、下水、浄化技術を審査対象とする第91類とは直接関係を有しないものであつて、このことは、イオン水生成器に関する考案は、原告のいう家庭用ポツトタイプのものであつても通常は第13類Dを主分類として審査されていること(乙第4、第5号証の各公開実用新案公報。ちなみに、前者の考案者は、本件発明の発明者の1人と同1人である。)からも明らかである。しかるに、本件発明についての特許出願は、なぜか上記の第13類Dではなく第91類Cを主分類として審査が行われたのであるが、本件発明が、前記のとおり本質的に特許に値しないものであるにもかかわらず特許を受けるに至つたのは、かかる不適切な分類の結果、畑違いの審査官によつて審査され(分類が異なれば、審査官の当該技術に対する認識も違うし、先行技術についての調査対象の分野、範囲も当然違つてくる。)、また、出願公告に際しても同業者の目を免れ特許異議の申立てを受けることもないまま(同業者は、第13類D関係の出願公告の特許公報には注意を払つているが、第91類C関係のそれにまでは注意を払つていない。)、特許査定の運びとなつたためである。
② しかして、イ号物件は、次の点において本件発明の構成要件を欠如し、それ故に本件発明と作用効果を異にするから、本件発明の技術的範囲に属さない。
(1) イ号物件は、本件発明の構成要件(2)「該陰極室に注ぎ口を連通させてあること」を欠如する。
(ア)(ⅰ) 本件発明の構成要件2が、「陰極室にのみ注ぎ口を連通させてあること」の意であることは、その特許請求の範囲の記載及び本件明細書の図面第1図から明らかである。
(ⅱ) 原告は、構成要件2は、注ぎ口が少なくとも陰極室に連通していれば足りることを示している旨反論するが、本件発明は、本件明細書の記載及び図面から明らかなとおり、飲料用アルカリイオン水を生成せしめ、これを注出利用することを目的としたものであつて、酸性イオン水は容器ごと取出して廃棄すべきものとされているのであるから、注ぎ口は陰極室とのみ連通していなければならず、陽極室に相当する容器と連通していてはかえつて具合が悪いのである。
(イ) イ号物件において本件発明の注ぎ口に対応するノズル13は、ポツト本体2とは別の蓋体10に設けられており、かつポツト本体2と蓋体10を結合した場合においても、後記(4)のとおりイ号物件がアルカリイオン水と酸性イオン水の双方の生成利用を目的とするものであるが故に、切喚レバー14の操作いかんにより、陰極室3と陽極室7とに選択的に連通するのであつて、常に陰極室3と連通しているとは限らない。したがつて、イ号物件は、本件発明の構成要件(2)を欠如する。
かかる構造の差は、後記(3)の陽極室の構造の相違から必然的に生ずるものである。なぜなら、本件発明にあたつては酸性イオン水は、独立した容器の中に集まるのであり、それを取るのはこの容器を取出すことによつて行うのに対し、イ号物件にあつては、陽極室7は底のない円筒素焼物5であつて、その中に酸性イオン水を入れたまま取出すことができないから、必然的に、ノズル13を選択的に陽極室7にも連通させることが必要となるからである。
右の点で、ノズル13が本件発明の構成要件(2)におけると同様陰極室3と常に連通状態にあるかの如き印象を与え、かつ、イ号物件の構成上の特徴に全く触れるところのない原告主張のイ号物件の構成(2)'の記載は不適切である。
(2) イ号物件は、本件発明の構成要件(3)「該陰極室頂部に開口を設けてあること」、同(4)中の「該開口口より右陰極室内に挿脱可能に容器を嵌挿し」なる要件を欠如する。
(ア)(ⅰ) 本件発明の構成要件(3)にいう「開口」とは、周縁に容器の上縁を嵌合させるための鍔状部を有する、容器の外周の大きさに相当する口(孔)を意味するものであり、同(4)にいう容器の「嵌挿」とは、陰極室頂部に位置する右のような意味での開口に嵌込み挿入し、容器の上縁を開口の鍔状部に係合支持することを意味するものであることは、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の「陰極室2の頂部には開口4が設けられている。この開口4より上記陰極室2内には、挿脱可能に容器5が嵌挿されており、該容器5の上縁5aが上記開口4の縁に係合支持されている。」(別添特許公報2欄16ないし20行)という記載及び添附図面から明らかである。
また、前記①(2)(ア)のとおり、右「嵌挿」の点を除き本件発明の構成要件をすべて具備した本件先願に係る考案が存在するのであるから、本件発明がこれに後れるものである以上、本件発明における「嵌挿」はまさに嵌込むことでなければならないのである。
(ⅱ) 原告は、上記「開口」とは、文字どおり「口を開いた」部分のことであると反論するか、もしそうであれば、液体を注入する室には通常そのような「口を開いた」部分があるに決まつているから、本件発明においてわざわざ「開口を設け」などと規定する必要はなかつたはずである。
(イ) イ号物件において本件発明の容器に対応する円筒素焼物5は、広い陰極室3内に入れられるだけであり、そのままでは陰極室3内を自由に移動する(その位置の固定は、保持体16をかぶせて回し、係止爪20に引掛けることによつて行う)ものである。したがつて、イ号物件には上記(ア)のような意味での「開口」は存しないし、イ号物件の円筒素焼物5は「開口より」陰極室内に「嵌挿」されるものではないから、イ号物件は、本件発明の構成要件(3)及び同(4)中の「該開口より右陰極室内に挿脱可能に容器を嵌挿し」なる要件を欠如する。
右の点で、「開口」なる語を慢然と用いて表現している原告主張のイ号物件の構成(3)'、(4)'の記載は、本件発明との差異をあいまいにするものであつて不適切である。
(3) イ号物件は、本件発明の構成要件(4)にいう「容器」の要件を欠如する。
(ア) 本件発明の構成要件(4)にいう「容器を嵌挿し、該容器内を陽極室とし」とは、1つの容器をもつて陽極室とすること、すなわち、陽極室となる容器は、それ自体で独立した容器ないし底のある入れもの(以下、便宜、「底のある」ことを「有底」、「底のない」ことを「無底」という。)であることを意味する。およそイオン水を作る器具である限り、必ず陽極室を具備していなければならないのであるか、本件発明は、右陽極室をそれ自体で独立した容器ないし有底の入れものとして構成しているのであり、この点が本件発明の特徴となつているのである。
(ⅰ) 容器といえば、通常有底の入れものを指すことは常識であるところ、本件明細書には、無底の、筒というべきものでもよい旨を明示する記載はもちろんこれを示唆する記載もないし、その添附図面にも、有底の、いわゆる容器の名にふさわしいものが示されているのみである(第1、第7図)。
(ⅱ) かえつて、本件明細書の発明の詳細な説明の欄にな、「外蓋17を開放し、内蓋14を外し、容器5を陰極室2より抜き出し、開口4より陰極室2内に注水すると共に、容器5内にも注水し、再び容器5を陰極室2内に挿入し」(別添特許公報3欄21ないし24行、以下、「本件記載部分A」という。)「とくに容器をポツト本体に対して挿脱可能に装置するものであるから、容器内に残された酸性水の除去、内部清掃ななどが行い易い利益もある。」(同4欄24ないし27行、以下、「本件記載部分B」という。)という記載があるが、これらは、いずれも容器がそれ自体で独立した容器ないし有底の入れものであることを前提とする記載であり、本件記載部分Bは、電解の結果、ポツト本体内に嵌挿された容器の中に酸性イオン水が残されるから、その中に酸性イオン水を残存せしめたまま容器をポツト本体内から取出し、しかる後にこの容器中の残存酸性水を他に明け、内部清掃をすることが可能であるということである。
そして、本件記載部分Bは、その直前の「このように、この発明によれば、特別な設備施工を行わずに手軽に、アルカリイオン濃度の高い飲料水をうることができ、保健、美容上に大いに活用できるという利益がある。」(別添特許公報4欄21ないし24行)との記載に続く記載であり、本件発明そのものの作用効果を説明したものである。しかも、上記直前の記載に示された作用効果は、本件先行技術の奏する作用効果と全く変わるところがないから、本件記載部分Bの作用効果が本件発明を特徴づけるものである。
(イ) 原告は、本件発明にいう容器は無底のもの(筒)も含むものであるとし、本件記載部分Bに関して、容器が無底のものであつても、それがポツト本体に対して「挿脱可能」に装置されていれば、何ら別の手段を講じなくても、アルカリイオン水(飲料水)注出後に容器を取出し、アルカリイオン水と同じ注ぎ口から容易に酸性イオン水を除去することができるから、無底のものであつても、挿脱可能であれば本件記載部分Bの作用効果を奏しうるものである旨反論するが、かかる反論は失当である。
すなわち、本件記載部分Bに本件発明の特徴的な作用効果として謳われているのは、前記のとおり、容器の中に酸性イオン水を残存せしめたまま容器をポツト本体内から取出し、しかる後にこの容器中の残存酸性イオン水を他に明け、内部清掃をすることが可能であるということであることは明白であり、無底のもの(筒)ではこのような操作をすることは不可能である。原告が無底のもの(筒)でも奏しうるとする、「アルカリイオン水注出後に容器を取出し、アルカリイオン水と同じ注ぎ口から容易に酸性イオン水を除去することができる」という作用効果は、上記の「容器の中に酸性イオン水を残存せしめたまま容器をポツト本体内から取出すことができる」という本件発明の特徴的な作用効果とは異なるものである。
のみならず、容器が有底のものであつて、その内内の酸性イオン水は容器ごと取出すというのであれば、ポツト本体内壁の素材の耐酸性について格別意を用いる必要はないが、原告のいうように、容器が無底のもの(筒)であつて、ポツト本体内のアルカリイオン水を予め除去したうえそれを取出すというのであれば、ポツト本体内壁の素材は酸によつて腐蝕されないものを用いなければならないという実際的な相違も問題とならざるをえない。
(ウ) イ号物件においては、右のようなそれ自体で独立した容器ないし有底の入れものは存在しない。本件発明の容器に対応する円筒素焼物5は上下のあいた円筒であり、イ号物件においては、この円筒をポツト本体2の底に押しつけて一時的に陽検室7を形成するにすぎない。それ故、円筒素焼物5を取出せば、酸性イオン水はそのままポツト本体2内に残つてアルカリイオン水と混ざつてしまうから、「容器の中に酸性イオン水を残存せしめたまま容器をポツト本体内から取出すことができる」という本件発明の特徴的な作用効果を奏しえないのである。
よつて、イ号物件は、本件発明の構成要件(4)にいう「容器」の要件を欠如する。
(エ) 原告は、仮に本件発明が容器について有底のものを想定していたとしても、イ号物件における円筒素焼物5が無底のものであるという構造上の差異は、単なる設計上の微差にとどまるものであり、あるいは、右円筒素焼物5は本件発明における容器の均等物である旨反論するが、前記1のとおり、本件発明と実質的に全く同一といつてよい本件先行技術が存在する本件においては、上記のような設計上の微差あるいは均等の主張は論外であり、妥当する余地はない。
(4)(ア) イ号物件は、アルカリイオン水のみならず酸性イオン水(洗顔等美容によい。)の生成利用をもその目的とするものであり、そのために、ノズル13は、前記(1)(イ)の構造により陰極室3と陽極室7とに選択的に連通するようになつているのである。
上記の点で、イ号物件がアルカリイオン水の生成利用のみをその目的とするものであるかの如き印象を与える、原告主張のイ号物件の構成(6)'及び作用効果(1)'の記載は不適切であり、また、作用効果(2)'の記載は、「円筒素焼物5内に残される酸性イオン水の除去」の難易ということがそもそも問題たりえないイ号物件には妥当しない。
(イ) 原告は、イ号物件において生ずる酸性イオン水の利用は、アルカリイオン水を生成する際に必然的に生ずる副生物の単なる廃物利用にすぎない旨反論するが、いずれが主生成物であり、副生成物であるかは、いずれに主たる利用目的があるかによつて異なり、双方に同等の利用目的が予定されているならば主、副の別はないところ、本件発明では、アルカリイオン水の利用だけを予定し、装置もこの目的を達することのみを念頭において構成されているから、酸性イオン水はまさに廃物である(したがつて捨てるしかない。)が、イ号物件では、アルカリイオン水と酸性イオン水の双方を利用することを当初から予定し、装置もこの目的を同等に達することができるように構成されているから、その酸性イオン水の利用をもつて廃物利用にすぎないというのは当たらない。原告指摘の甲第3号証においても、イ号物件は、アルカリイオン水(カルシウムイオン水)と酸性イオン水(アストリンゼント)の双方の生成利用を目的としたものであることが明記されているのである。
第4被告の主張に対する原告の反論
1 本件発明は基本的に飲料水ポツトに係るものであり、その電解機構自体が電解の一般的な原理にならつているとしても、そして、工業用ないし業務用の大型の電解装置に係る本件先行技術が存在するとしても、根本的に対象及び技術分野を異にする以上、そのことは、本件発明の評価に何らの影響を及ぼすものではない。
① 本件発明が飲料水ポツトに係るものであることは、その発明の名称及び特許請求の範囲の記載から明らかである。ここにいう「ポツト」とは、現在のわが国における生活用語上、電気ポツトやコーヒーポツトに代表されるように、家庭で、食卓などに置かれて日常簡便、手軽に用いられる日用品的な水等を入れるものを指し、例えば「水槽」、「甕」、業務用電解槽、装置、製造機械と表現されるようなものは含まない。
本件発明に係る「飲料水ポツト」も、上記のような意味でのポツトを指称していることは、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の、「(従来の装置は)いづれも水道管などに直結する形式で、設備施工が必要であり、家庭などで簡便に使用できない欠点があつた。」(別添特許公報1欄35ないし37行)、「この発明は……比較的手軽に利用できるポツトタイプに改良したもの」(同2欄1ないし3行)、「この発明によれば、特別な設備施工を行わずに手軽に、アルカリイオン濃度の高い飲料水をうることができる」(同4欄21ないし23行)という記載及び添附図面から明らかである。
そして、本件発明の特許出願前、上記のような意味でのポツトにおいて本件発明の如き構成(第2、2①)を備えたものは存在していなかつたし、そもそもポツトに電解装置を組込んで電解を行うということすら何人も想到しなかつたのである。しかして、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、アルカリイオン濃度の高い飲料水製造のために種々の装置が既に存在していることを前提に、家庭などで簡便に使用できるポツトに電解機構を組込んだところに本件発明の主眼があることが謳われている(別添特許公報1欄34行ないし2欄3行)のであつて、本件発明は、この点のみをもつてしても、十分に特許に値する発明ということができる。
② 被告は、原理的にも構成自体においても基本的に何ら差異のないものを、家庭用に小型化し、適当な形にアレンジするという程度のことは、原則として全く技術的創作力を要しない問題である旨主張するが、工業用ないし業務用の大型の装置とポツトでは、使用の方法及び場所、構造、形式、使用者等の相違から生ずる商品としての具体的な個性及び技術的発想の前提を異にし、技術分野を異にするのであるから、上記のような主張は全く不当である。
③ そして、本件先行技術は、いずれも、工業的に電解水を製造するための電解水製造機械又は装置に関するものであつて、本件発明の飲料水ポツトとは対象及び技術分野を異にする。
(1) 本件先願に係る考案の明細書(乙第1号証の1)の考案の詳細な説明の欄には、「透明な水槽にはヘルスウオーター取出口およびコツクを設け……蓋体には……注水パイプおよび酸性水取出パイプ挿通路を設け」(3頁8ないし14行)、「酸性水を取り出す場合は、……簡易ハンドポンプにより取り出す」(4頁18行ないし5頁1行)、「蓋体(6)の装着が極めて容易」(6頁3、4行)、「運搬・設置が便利で、……外部からアルカリ性液の製造経過……を明確に観察することができる」(7頁15ないし18行)という記載があり、これらの記載及び添附図面からすれば、本件先願に係る考案が、ポツトとは技術分野を異にする工業的ないし産業的製造機械を対象としていることは明らかである。
(2) 本件公知技術の明細書(乙第2号証)の考案の詳細な説明の欄には、「Z字形廻動杆8の浮子11」(別添実用新案公報2欄17行)、「電解透析水位と浮子の位置を整定することによつて所望する水素イオン濃度に電解が到達すれば自動的に通電を停止し」(同2欄4ないし6行)、「覗き穴18から内部ガスの発生状況……を観察することが出来る。」(同2欄24ないし27行)という記載があるが、ポツトでは上記のような浮子や覗き穴を設ける余地はないから、上記記載は、、本件公知技術がまさに工業用ないし業務用の大型の電解装置を対象とするものであることを示している。本件公知技術の明細書において「ポータブル」と記載されているのも、工業用ないし業務用の大型の電解装置において持運びができるようにしてあるというにすぎない。
(エ) また、特許庁の審査分類において、本件先行技術の主分類がともに第13類Dとされているのに対し、本件発明の主分類が第91類Cとされているのは、本件発明が本件先行技術とは技術分野を異にすることを特許庁担当官が認めたからに外ならない。
2 イ号物件が本件発明の技術的範囲に属さない理由として被告の主張するところは、以下のとおり、いずれも失当である。
①(1) 本件発明の構成要件(2)は、注ぎ口が少なくとも陰極室に連通していれば足りることを示しているのであり、注ぎ口を設ける位置をポツト本体に限定したものでも、連通のし方を直接的な連通に限定したものでもないし、注ぎ口が陰極室にのみ連通していることに限定したものでもない。本件明細書の図面は、1実施例を示したものにすぎない。
(2) イ号物件の構成(2)'は、ノズル13がポツト本体2に設けられているとか、陰極室3にのみ連通しているとか限定しているものではなく、本件発明の構成要件(2)と対比するに必要な限度でイ号物件の構成を特定したものであつて、イ号物件が構成(2)'を有し、かつこれが本件発明の構成要件(2)を充足することは明らかである。ノズル13が陰極室3だけでなく陽極室7にも選択的に連通しうることは、単なる附加的構成にすぎない。
被告は、ノズル13が陰極室3と陽極室7とに選択的に連通しうる構造になつていることは、陽極室7が底のない円筒素焼物5であることから必然的に生ずる構造である旨主張するが、たとえ、陽極室7が底のない円筒素焼物5であつても、ノズル13からアルカリイオン水を全部注出した後には同じノズル13から酸性イオン水を注出することはできるのであるから、イ号物件の上記構造は、アルカリイオン水がポツト本体2内に存在する状態でも酸性イオン水を注出できるようにしたいというだけのことであつて、何ら必然的な構造ではなく、いわば単なる便利さのための構造にすぎない。
②(1) 本件発明の構成要件(3)にいう「開口」とは、特許請求の範囲の記載からも明らかなように、被告主張の如き周縁に容器の上縁を嵌合させるための鍔状部を有する、容器の外周の大きさに相当する口(孔)に限定されるものではなく、常識的に文字どおり「口を開いた」部分のことである。また、構成要件(4)にいう「嵌挿」も、以下のとおり、実質的には「挿入」の意であり、被告主張のように限定されるものではない。
すなわち、「嵌挿」は、嵌入、嵌装、嵌込とは異なり、「嵌め、挿し入れる」の意であつて、孔に嵌めるということではない。また、本件明細書の発明の詳細な説明の欄では、本件発明の一般的ないし基本的説明として、「陰極室内に容器を挿脱可能に挿入して」(別添特許公報2欄4、5行)、「容器をポツト本体に対して挿脱可能に装置する」(同4欄24、25行)と記載されており、嵌挿は、実質的には「挿入」つまり「挿し入れる」と同義のものとして用いられていることが明らかである。被告指摘の発明の詳細な説明の欄の記載(別添特許公報2欄16ないし20行)及び添附図面は、1実施例に関するものであるにすぎないのみならず、「嵌挿」そのものの具体的方法とか態様を説明したものではなく、「嵌挿」とは全く無関係の、構成要件とはならない別の附加的部分の構造を説明したものにすぎないのであつて、つまりは、嵌挿したものについて更に上縁を係合支持する方法も、ありうることを説明したにすぎないのである。加えて、構成要件(4)は、「開口より陰極室内に……嵌挿し」というのであつて、「開口に嵌挿する」というのでも、まして「陰極室の開口に嵌挿する」というのでもない。つまり、本件発明は、陰極室内に容器を嵌挿するに当たつて、かかる嵌挿という行為を開口より行うことを要件としているだけで、開口に嵌めることは何ら要件としていないのである。
本件明細書で「嵌挿」の語が用いられているのは、挿入するべき場所が陰極室という広い空洞部であつて、かかる空洞部に物を「挿入」することを見方によつては「嵌める」と表現する場合もあることから、これら双方の表現を包含する趣旨である。
(2) イ号物件においても、陰極室3の頂部は開口されているのであるから、構成(3)'を有するし、また、円筒素焼物5をこの開口4より挿入してある(開口4以外から挿入することは不可能である。)から、構成(4)'を有するものである。
③(1) 本件発明の構成要件(4)にいう「容器」とは、被告主張の如きそれ自体で独立した容器ないし有底の入れものに限定されず、無底のもの(筒)も含むし、更には、広く、酸性イオン水を収容するという目的に供されるものを意味するということができる。
(ア) 一般的に容器とは、「入れもの」、すなわち、ものを収容する目的に供されるものを指す語であり、かかる目的との関係において相対的に把握されるべき概念である。したがつて、容器は、もともと特定の構成や形態のものに限定されるわけではなく、まして有底のものに限定される理由がない。無底の容器の概念も存在するのである。
(イ) のみならず、本件明細書において、容器を、それ自体で独立した容器ないし有底の入れものに限定して解釈すべき根拠は存しない。本件特許請求の範囲の記載には、「容器内を陽極室とし」とあり、つまり、容器の内側という場所に陽極室があること(発明の詳細な説明の欄、別添特許公報2欄20、21行)を要件としているにすぎず、陽極室が独立した容器であることまでも要件としているわけではない。
かえつて、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、添附図面第7図に関する説明として、「容器5は、金属性で、その底部を開口し、そこに円盤状のポーラスな隔壁板28を装着したもの」(別添特許公報4欄12ないし14行)との記載があり、容器自体としては、底部を開口したものも含むことを明示している。なるほど、上記開口された容器の底部には、「円盤状のポーラスな隔壁板28」が「装着」されているわけであるが、そこでは、容器がポーラスな隔壁板28と合して酸性イオン水を収容することを予定しており、隔壁板28を、容器とは別の物体、別の概念として把握しているのであつて、容器それ自体については、底部を開口したもの、すなわち無底のものも容器と表現しているのである。
なお、本件先願に係る考案の明細書ではわざわざ「素焼の有底筒体」と記載されているのであつて、本件発明においても、もし、容器は有底のものに限定されるというのであれば、「有底の容器」と明示されてしかるべきものである。
(ウ) そして、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の、「この陰極室内に容器を挿脱可能に挿入し)(別添特許公報2欄4、5行)、「該容器5は……内側を陽極室6とし、ポツト本体1内を陰陽両極室2および6に仕切つている。」(同2欄20ないし23行)、「該容器に設けたポーラスな隔壁を介して電気滲透により陰極室内のアルカリイオン濃度を高め」(同2欄5ないし7行)、「酸性水」が「容器内に残され」る(同4欄26行)との記載に基づいて、本件発明における容器を特定すれば、陰極室内に挿入され、その内側に陰極室とは仕切られた陽極室を形成し、陽極室内に集まる酸性イオン水を収容するものを指すというべきである。
(エ) 更にいえば、前記(ア)のとおり容器はものを収容する目的に供されるものを指す語であり、かかる目的との関係において相対的に把握されるべき概念であるから、本件発明にいう容器の意義を理解するためには、それが何に対する関係において用いられているかを考えざるをえないところ、本件発明にいう容器は、陰極室にアルカリイオン濃度の高い飲料水を集めるために生ずる酸性イオン水に対する関係において用いられている語であるから、陰極室にアルカリイオン水を集めるために、かかるアルカリイオン水と仕切つた状態で、その内側に酸性イオン水を収容する目的で用いられ、かつ上記目的を実質的に達するものである以上、酸性イオン水に対する関係で本件発明にいう容器に該当するものといわなければならない。本件明細書においては、このように酸性イオン水を収容する機能をもつ物体であるという観点から、かかる物体を容器と表現したものと考えるべきである。
そして、前記(イ)第2段のとおり、本件明細書の記載が、容器自体としては底部を開口したものも含むことを明示し、隔壁板28という別の物体と合して酸性イオン水を収容することを予定していることを併せ考えると、本件発明にいう「容器」とは、広く、酸性イオン水を収容するという目的に供されるものを意味するということができる。
(オ) 被告は、本件明細書の発明の詳細な説明の欄中の本件記載部分B(別添特許公報4欄24ないし27行)は、容器がそれ自体で独立した容器ないし有底の入れものであることを前提とする記載であると主張する。
しかし、本件記載部分Bは、容器がポツト本体に対して「挿脱可能」に装置されることからくる効果を述べたものであつて、容器が有底であるか無底であるかに関係しない。このことは、本件記載部分Bの記載のし方から明らかであるだけでなく、容器が有底のものであつても、それがポツト本体に固定されていて「挿脱不能」であれば、容器内に集まり収容される酸性イオン水は、例えばポツト本体をひつくり返すか、ポンプ作用等を利用するかしなければその除去ができないのに対し、容器が無底のものであつても、それがポツト本体に対して「挿脱可能」に装置されていれば、何ら別の手段を講じなくてもアルカリイオン水(飲料水)注出後に容器を取出し、アルカリイオン水と同じ注ぎ口から容易に酸性イオン水を除去することができることから明らかである。すなわち、容器が無底のものであつても「挿脱可能」であれば、本件記載部分Bの作用効果を奏しうるのである。
本件記載部分Bの意味を、被告主張のように「容器の中に酸性イオン水を残存せしめたまま容器をポツト本体内から取出すことができる」ことに限定して解釈すべき根拠はない。
(2) イ号物件は、構成(4)'から明らかなとおり、「陰極室3の頂部に形成された開口4より陰極室3内に挿脱可能に円筒素焼物5を挿入し、その下端部を、パツキング6を介してポツト本体2の内底面に押圧することにより該円筒素焼物5内を液密にし、上記円筒素焼物5内を陽極室7とし」たものであるから、イ号物件における円筒素焼物5は、陰極室3内に挿入され、その内側に陰極室3とは仕切られた陽極室7を形成し、陽極室7内に集まる酸性イオン水を収容するものであり、実質的に円筒素焼物5内を1つの水容器として構成している。
したがつて、イ号物件は、本件発明の構成要件(4)にいう「容器」の要件を具備するものである。上記「容器」の意味を前記(1)(エ)の如く、広く、酸性イオン水を収容するという目的に供されるものと解すれば、なおさらのことである。
(3) 仮に、本件発明が容器について有底のものを想定していたとしても、前記のとおり、イ号物件における円筒素焼物5は、その内部に酸性イオン水を集め収容するために用いられ、かつ、その下端部をポツト本体2の内底面に押圧して内部を外部から液密に仕切り、酸性イオン水のための水容器たりうるように構成されているのであるから、円筒素焼物5が無底のものであるという構造上の差異は、単なる設計上の微差にとどまるものであり、あるいは、上記円筒素焼物5は、目的、効果の面において水容器を形成する物体であるという意味から、本件発明における容器の均等物であるというべきである。
④ 被告は、イ号物件の構成(6)'、作用効果(1)'につき、イ号物件は、アルカリイオン水のみならず、酸性イオン水の生成利用をもその目的とするものであると主張するが、仮にそうであるにしても、イ号物件の主目的が飲料用カルシウムイオン水の生成であることは、例えば甲第3号証の被告のパンフレツトの記載から明らかである。酸性イオン水は、アルカリイオン水を生成する際に必然的に生ずるいわば副生物であり、かかる酸性イオン水の利用は単なる廃物利用にすぎない。イ号物件は、わざわざ酸性イオン水を生成するための機器ではないのである。
第5証拠関係
1 原告
① 甲第1ないし第4号証、第5号証の1ないし3、第6号証の1ないし5を提出。
② 検甲第1号証(イ号物件)を提出。
③ 乙号各証の成立は認める。
2 被告
① 乙第1号証の1ないし3、第2号証、第3号証の1ないし4、第4、第5号証を提出。
② 甲第4号証の成立は不知。その余の甲号各証の成立(ただし、第1号証については原本の存在及び成立)及び検甲第1号証が原告主張のものであることは認める。
1 原告が本件特許権を有していること、本件発明の願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、被告がイ号物件を譲渡、販売し、貸渡し並びに譲渡、販売及び貸渡のために展示していることは当事者間に争いがなく、被告がイ号物件を製造しているとの事実は、本件全証拠によるも認められない(成立に争いがない甲第3号証及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、被告が譲渡等を行つているイ号物件の製造は、訴外株式会社メイセイがこれを行つているものであることが認められる。)。
2 そこで、イ号物件が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて審究するに、まず、上記1に確定した特許請求の範囲の記載に成立に争いがない甲第2号証(本件特許公報。別添特許公報と同じ。)及び本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、本件発明の構成要件は、次の(1)ないし(6)のとおりであると認められる。
(1) ポツト本体に陰極室を形成してあること、
(2) 該陰極室に注ぎ口を連通させてあること、
(3) 該陰極室頂部に開口を設けてあること、
(4) 諺開口より上記陰極室内に挿脱可能に容器を嵌挿し、該容器内を陽極室とし、該陽極室と陰極室とをポーラスな隔壁で仕切つてあること。
(5) 各極室内に電極を設けてあること、
(6) 以上の構造を備えた飲料水ポツトであること。
3 しかして、被告が、本件発明の構成要件(4)にいう「容器」とはそれ自体で独立した容器ないし有底の入れものを指称し、イ号物件はかかる「容器」の要件を欠如すると主張するのに鑑み、上記「容器」の意義について考察する。
① 前掲甲第2号証によれば、本件明細書には、「容器」は無底のものすなわち筒というべきものでもよいとする旨の記載はなく、その添附図面には、実施例として、有底の素焼物(第1図)及び環状の底を有する金属製円筒の底部の開口に円盤状のポーラスな隔壁板を液密に装置したもの(第7図)が示されていること(別添特許公報2欄20ないし23行及び第1図並びに4欄12ないし17行及び第7図)が認められる。
② そして、同じく甲第2号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、1実施例についての説明として、本件記載部分A、すなわち「外蓋17を開放し、内蓋14を外し、容器5を陰極室2より抜き出し、開口4より陰極室2内に注水すると共に、容器5内にも注水し、再び容器5を陰極室2内に挿入し」(別添特許公報3欄21ないし24行)という記載のあることが認められ、これは、「容器」がそれ自体で独立した客器ないし有底の入れものであることを前提とする記載であることが明らかである。
また、同号証によれば、同じく発明の詳細な説明の欄に、その直前の「この発明によれば、特別な設備施工を行わずに手軽に、アルカリイオン濃度の高い飲料水をうることでき、保健、美容上大いに活用できるという利益がある。」(別添特許公報4欄21ないし24行)という記載に引続いて、本件記載部分B、すなわち「とくに、容器をポツト本体に対して挿脱可能に装置するものであるから、容器内に残された酸性水の除去、内部清掃などが行い易い利益もある。)「同4欄24ないし27行)という記載のあることが認められるところ、本件記載部分Bは、1実施例ではなく本件発明そのものの作用効果を説明したものであることがその記載位置から明らかであり、そして、その意味は、「容器はポツト本体に対して挿脱可能に装置されているから、電解の結果容器内に残された酸性イオン水は、容器ごと取出すことにより、容易に除去することができ、また内部清掃を行いやすい」というにあると認められるから、本件記載部分Aと同様、「容器」がそれ自体で独立した容器ないし有底の入れものであることを前提とする記載であることが明らかである。
この点に関して、原告は、本件記載部分Bは、容器がポツト本体に対して「挿脱可能」に装置されることからくる効果を述べたものであつて、容器が有底であるか無底であるかに関係しないものであり、容器が無底のものであつても、それがポツト本体に対して「挿脱可能」に装置されていれば、何ら別の手段を講じなくても、アルカリイオン水(飲料水)注出後に容器を取出し、アルカリイオン水と同じ注ぎ口から容易に酸性イオン水を除去することができるから、本件記載部分Bの作用効果を奏しうる旨主張する。しかしながら、本件記載部分B自体の記載に本件記載部分Aの記載及び添附図面を併せ考えると、本件記載部分Bの意味は、前認定のとおり「……容器内に残された酸性イオン水は、容器ごと取出すことにより容易に除去することができる」というにあり、原告主張のような操作をも包含するものとは到底認められないから、原告の主張は採用できない。
③ また、原告は、甲第2号証によつて認められる、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の、添附図面第7図の実施例に関する「容器5は、金属製で、その底部を開口し、そこに円盤状のポーラスな隔壁板28を装着したもの」(別添特許公報4欄12ないし14行)という記載は、容器自体としては、底部を開口したものも含むことを明示していると主張するが、右記載は、結局のところ、底部の開口に円盤状のポーラスな隔壁板28を装着したもの、すなわちそれ自体で独立した容器と評しうるものを容器と称しているものであることが認められ、そして、上記のような形態の「容器」であれば、前記2第2段認定の本件記載部分Bの作用効果を奏しうることは明らかであるから、原告の上記主張も採用しえない。
④ 以上によれば、本件発明の構成要件(4)にいう「容器」とは、それ自体で独立した容器ないし有底の入れものを指称すると解すべきであり、これに限定されず、無底のもの(筒)も含むし、更には、広く酸性イオン水を収容するという目的に供されるものを意味するとの原告の主張は採用することができない。
原告が第4被告の主張に対する原告の反論2③(1)(ウ)において引用する本件明細書の発明の詳細な説明の欄の記載(前掲甲第2号証によつて認められる。)あるいは、同(エ)において述べるところも、何ら上記判断を左右するものではない。
4 本件発明の構成要件(4)にいう容器を上記のようにそれ自体で独立した容器ないし有底の入れものと解すべきことは、以下のような本件先行技術との対比からも肯認しうるところである。
1 成立に争いのない乙第1号証の1によれば、本件先願に係る考察(昭和47年3月8日出願)の実用新案登録請求の範囲の記載は、「水槽内に配置した素焼筒体の内外に水を入れ電極を挿入し、直流電流を通電して水を電解しアルカリ性液を得るための機器において水槽にはアルカリ性液取出口およびコツクを設けると共に、素焼筒内には陽極の電極棒をまた水槽と素焼筒体間には陰極の電極棒を位置せしめうるように水槽蓋体に電極棒を装着し、かつ蓋体には素焼筒体の上部位置に注水パイプを装着したことを特徴とするヘルスウオーター製造器。」であることが認められ、この実用新案登録請求の範囲の記載に、同号証によつて認められる明細書の考案の詳細な説明の欄の記載及び添附図面を総合すれば、本件先願に係る考案は、本件発明の構成要件に対応させて分説すると、
(ア) 水槽に陰極室を形成してあること。
(イ) 該陰極室たる水槽にアルカリ性液取出口及びコツクを設けてあること、
(ウ) 該陰極室たる水槽の頂部は開口されていること(このことは、水槽には水槽蓋体が設けられていること、添附図面及び次の(エ)の構成中の「陰極室内に挿脱可能に素焼筒体を配置し」てあることという構成から明らかである。)、
(エ) 該開口より上記陰極室内に挿脱可能に素焼筒体を配置し(実用新案登録請求の範囲の記載中の「水槽内に配置した素焼筒体」にいう「配置」が、「挿脱可能」に挿入する意であることは、考察の詳細な説明の欄の「(オ)は有底の素焼筒体にして、水槽(ア)内のほぼ中央位置に配置してあり、必要に応じ取出して掃除しうるようにしてある。」(4頁5ないし7行)、「清掃は主として素焼筒体(オ)のみを取り出して行えばことたりる」(7頁6、7行)、「素焼筒体(オ)は浮上してくるが蓋体(カ)により抑制されるので何ら支障は生じない。」(6頁12、13行)、「素焼体の安定性が良好」(7頁8、9行)という記載から明らかである。)、該素焼箇体内を陽極室とし、該陽極室と陰極室とを該素焼筒体より成るポーラスな隔壁で仕切つてあること、
(オ) 各極室内に電極棒を設けてあること(素焼筒内には陽極の電極棒を、また水槽と素焼筒体間には陰極の電極棒を位置せしめうるように水槽蓋体に電極棒を装着してあること)、
(カ) ヘルスウオーター製造器であること、
(キ) なお、蓋体には素焼筒体の上部位置に注水パイプを装着してあること。
という構成要件から成るものであることが認められるる。
なお、成立に争いのない乙第1号証の2、3によれば、本件先願に係る考案の実用新案登録出願は、「水槽に水取出口およびコツクを設けること、あるいは水槽蓋体に注水パイプを装着することは、慣用手段と認められ、該手段をヘルスウオーター製造器に適用することに格別の考案力は認められない。」から、その出願前に頒布された本件公知技術の実用新案公報(実公昭44-24217号)に記載された考案に基づいて、その出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるとして、実用新案法第3条第2項、第11条第1号の規定に基づき拒絶査定を受けたことが認められる。
② そこで、本件特許請求の範囲の記載を分説したところに基づく本件発明の構成要件と上記認定の本件先願に係る考案の構成要件とを対比するに、本件発明の「ポツト本体」あるいは「飲料水ポツト」と本件先願に係る考案の「水槽」あるいは「ヘルスウオーター製造器」との文言上の相違を別にすれば、本件発明の構成要件は本件先願に係る考案の構成要件に完全に包含されることが明らかである(本件発明の「注ぎ口」は、本件先願に係る考案の「アルカリ性液取出口及びコツク」に該当する。)。そして、上記「ポツト本体」あるいは「飲料水ポツト」と「水槽」あるいは「ヘルスウオーター製造器」との文言上の相違に関して、原告は、本件発明は、飲料水ポツト、すなわち、家庭で、食卓などに置かれて日常簡便、手軽に用いられる日用品的な水等を入れるものを対象とするものであるのに対し、本件先願に係る考案は、工業用ないし業務用の大型の電解装置を対象とするものであるから、両者は対象及び技術分野を異にする(したがつて、発明ないし考案として同一ではなく、全く別個のものである。)と主張する。
しかしながら、後掲乙第2号証によれば、後記3第3段認定のとおり原告のいう飲料水ポツトに電解装置を組込んで電解を行うものであると明確に認められる本件公知技術について、その明細書の実用新案登録請求の範囲の記載、考案の詳細な説明の欄「別添実用新案公報1欄15、16行、23、24行、2欄2行、4行、3欄10行など)及び図面の簡単な説明の欄において「(円筒型)隔膜槽」あるいは「(ポータプル自動停止型)電解水製造装置」なる語が用いられていることが認められること、並びに、前掲乙第1号証の1によつて認められる本件先願に係る考案の詳細な説明の欄中の、本考案「の目的とするところは、構成をコンパクトにすると共に、アルカリ性液の取出し、および水道水あるいはカルシユーム水溶液の注入を容易ならしめ、操作を便ならしめることを目的とするものである。」(2頁1ないし5行)、「本考案は……取扱いの便利なヘルスウオーター(アルカリ性水)製造機を提供しようとするもの」(3頁5ないし7行)及び本考案は「付属機器が水槽と一体化されているので運搬・設置が便利」「7頁14、15行)という記載、その図面第1ないし第3図(もとより1実施例を示すものにすぎず、かつ、図面の性質上各部の寸法が正しく縮尺されて表示されているとはいえないが、少なくとも、工業用ないし業務用の大型の電解装置を示すものとは断定し難く、むしろ、家庭で、食卓などに置かれて日常簡便、手軽に用いられる日用品的な電解装置を示すものと解される。)並びに「ヘルスウオーター」製造器なる命名を併せ考えると、本件先願に係る考案が原告のいう飲料水ポツトを対象から除外しているとは到底いえず、一方、本件特許請求の範囲の記載においては、ポツトの点に関し、単に「ポツト本体」及び「飲料水ポツト」とされているのみで、本件先願に係る考案に比し、電解装置を原告のいう飲料水ポツトに組込んだことに伴つて生ずる構成上の特徴が何ら記載されていない(原告自身、工業用ないし業務用の大型の装置とポツトでは、使用の方法及び場所、形式、使用者等の相違から生ずる商品としての具体的な個性及び技術的発想の前提を異にする旨主張するか、かかる差異に基づく具体的な構成上の特徴は本件特許請求の範囲の記載に何ら表わされていない。)から、本件先願に係る考案の「水槽」、「ヘルスウオーター製造器」は、それぞれ本件発明の「ポツト本体」、「飲料水ポツト」を包含するものであり、本件先願に係る考案は少なくとも原告のいう飲料水ポツトをも対象とするものであるといわなければならない。
してみれば、本件発明の構成要件は本件先願に係る考案の構成要件とことごとく一致するものであり、作用効果においても格別の差異を見出すことはできないから、本件発明は本件先願に係る考案と同一であるといわざるをえない。
前記本件先願に係る考案の構成要件によれば、本件先願に係る考案は、水槽に(アルカリ性液取出口及び)コツクが蓋体に注水パイプがそれぞれ設けられていることをその構成要件の一部(イ)、(キ))とするものであることが明らかであるが、前記①後段認定の事実及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、上記のような構成は電解装置の分野における慣用手段にすぎないものと認められること並びに前記本件先願に係る考案の明細書の考案の詳細な説明の欄中の記載及び図面第1、第2図に照らせば、上記のような構成をとることにより、そのヘルスウオーター製造器の大きさ、形状等が著しく変わつて、家庭で、食卓などに置かれて日常簡便、手軽に用いられる日用品的なものではありえなくなるとは到底いえないし、また、本件発明が上記のような構成を欠如している点は単なる慣用手段の削除というべきであり、そこに何ら別個の技術思想を見出すことはできないから本件先願に係る考案が上記のような構成をその構成要件の1部としていることは、本件発明との同一性を否定する根拠とはなりえず、前記判断を何ら左右するものではない。
③ したがつて、本件発明の技術的範囲を本件特許請求の範囲の記載どおりのものと解するときは、本件発明は、本件先願に係る考案と同一であり、本件発明についての特許は、特許法第39条第3項の規定に違反してされたものとして同法第123条第1項第1号所定の無効原因を有することになるから、本件においてこれを有効なものとして扱う以上、その技術的範囲は、本件明細書に実施例として具体的に開示されたところに限定して解釈するのが相当である。
そして、本件明細書において具体的に開示されている容器は、有底の素焼物(第1図)及び環状の底を有する金属製円筒の底部の開口に円盤状のポーラスな隔壁板を液密に装着したもの(第7図)のみであること前記のとおりであるから、結局、本件発明にいう「容器」は、少なくとも、それ自体で独立した容器ないし有底の入れものであることを要するといわなければならない。
なお、原告は、本件発明の特許出願前には原告のいう飲料水ポツトに電解装置を組込んで電解を行うということは何人も想到しなかつた旨主張するが、本件先願に係る考案が原告のいう飲料水ポツトをも対象とするものであることは前記②のとおりであるのみならず、成立に争いのない乙第2号証によれば、本件公知技術の明細書には、実施例として、本件発明の構成要件に対応させて分説すると、
(1)' 樹脂製容器1に陽電室14を形成してあること、
(3)' 該陽電室14の頂部は開口されていること、
(4)' 上記陽電室14内に円筒型隔膜槽2を配置し(開口より挿脱可能に挿入したものであるかどうかは、明細書の記載からは明らかでない。)、該円筒型隔膜槽2内を陰電室13とし、該陰電室13と陽電室14とを該円筒型隔膜槽2より成るポーラスな隔壁で仕切つてあること、
(5)' 陽電室14内に陽電極71、72、73……を、陰電室13内に陰電極6を各設けてあること、
(6)' ポータブル自動停止型電解水製造装置であること、
(7)' なお、樹脂製容器1には手さげ20を取り付けてあること、
という構成を含むものが示されていることが認められ、そして、同号証によつて認められるその考案の詳細な説明の欄の「この考案は……電解水製造装置全体を簡易単一小型化し取扱い安全で持ち運びに便利とした」(別添実用新案公報2欄1ないし3行)、「樹脂製容器1には手さげ20を取つけて携行に便利にしているので場所と取扱者を差別することなく使用が簡単で」(同3欄12行ないし4欄1行)という記載及び添付図面に照らせば、本件公知技術もまた、原告のいう飲料水ポツトに電解装置を組込んで電解を行うものであると明確に認められるから、原告の上記主張は採用しえない。本件公知技術が工業用ないし業務用の大型の電解装置を対象とするものであることの根拠として原告の引用する考案の詳細な説明の欄の「Z字形廻動杆8の浮子11」(別添実用新案公報2欄17行)、「電解透析水位と浮子の位置を整定することによつて所望する水素イオン濃度に電解が到達すれば自動的に通電を停止し」(同2欄4ないし6行)、「覗き穴18から内部ガスの発生状況……を観察することが出来る」(同2欄24ないし27行)という記載(いずれも前掲乙第2号証によつて認められる。)は、本件公知技術が原告のいう飲料水ポツトを対象とするものであることと何ら矛盾するものではない(また、前掲乙第1号証の2、第2号証、成立に争いのない乙第3号証の1ないし4、第4、第5号証によれば、特許庁の審査分類においては、本件発明や本件先行技術のような電解装置に関する発明、考案についての出願は、第13類Dを主分類として審査される建前であると認められるので、本件発明についての特許出願が浄化技術を対象とする第91類C(前掲乙第3号証の1ないし4によつて認められる。)を主分類として審査された(前掲甲第2号証によつて認められる。)のは、何らかの齟齬によるものと推測される。)。
5 そこで、本件発明の構成要件(4)にいう「容器」を前記のようにそれ自体で独立した容器ないし有底の入れものと解することを前提に、イ号物件を本件発明と対比するに、当事者間に争いのない別紙物件目録の記載及びイ号物件であること当事者間に争いのない検甲第1号証によれば、イ号物件は、本件発明の構成要件に対応させて分説すると、
(1)' ポツト本体2内に陰極室3を形成してあること、
(2)' 陰極室3(及び陽極室7)に、水を注出するノズル13を注入口11(及び12)を経て連通させてあること、
(3)' 陰極室3の頂部に開口4を形成してあること、
(4)' 上記開口4より陰極室3内に挿脱可能に円筒素焼物5を挿入し、その下端部を、パツキング6を介してポツト本体2の内底面に押圧することにより該円筒素焼物5内を液密にし、上記円筒素焼物5内を陽極室7とし、陽極室7と陰極室3とを上記円筒素焼物5より成るポーラスな隔壁で仕切つてあること、
(5)' 各極室3、7内に細長い電極棒8、9を設けてあること、
(6)' 以上の構造を備えた、飲料用カルシウムイオン水の生成器たるポツトであること。
という構成を有するものであることが認められ、これによれば、イ号物件において本件発明の構成要件(4)にいう「容器」に対応すると認められる上記構成(4)'にいう「円筒素焼物5」は、無底の円筒であり、この円筒素焼物5がそれ自体で独立した容器ないし有底の入れものに該当しないことは明らかであるから、イ号物件の構成(4)'は本件発明の構成物件(4)を充足せず、したがつて、イ号物件は本件発明の構成要件(4)を欠如するものであるといわなければならないし、それ故、イ号物件は、前記3②第2段認定の「容器内に残された酸性イオン水は、容器ごと取出すことにより容易に除去することができる」という本件発明の作用効果を奏しえない(円筒素焼物5を取出せば、酸性イオン水はそのままポツト本体内に残つてしまう。)ものである。
6 原告は、仮に本件発的が容器について有底のものを想定していたとしても、イ号物件における円筒素焼物5が無底のものであるという構造上の差異は、単なる設計上の微差にとどまるものであり、あるいは上記円筒素焼物5は本件発明にいう容器の均等物である旨主張するが、前記4に述べたところからすれば、かかる設計上の微差あるいは均等の理論を適用する余地はないといわなければならない。
7 以上によれば、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属さないというべきであるから、イ号物件が本件発明の技術的範囲に属することを前提とする本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由なきものとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
<以下省略>